京大・阪大・医学部受験のあれこれ

京都大学大学院卒のプロ講師・家庭教師によるブログ

ケース)友達のような生徒

ある家庭教師センターから体験授業の依頼がありました。

それはまず高校2年生の生徒の学力診断をやってほしいというものでした。

 

行ってみると、これがとんでもなくぐうたらな生徒でした。部活をやったり、友達と遊んだり、外では活発に活動していますが、学業に関してはできる限り怠けるという方でした。

 

しかしながら、聞くと志望校は東京海洋大学ということでしたので、ごく普通に勉強を積み上げていけば合格できるだろうということを伝えました。

 

その後、そのお母さんが私を指名してくださり、授業が開始することになりました。

私は大したことをしていなかったので、少し不思議に思いました。家庭教師センターもそのご家庭には別の講師を想定していたらしく、計算が狂ったようで少し苛立っていました。

後々話を伺うと、そのお母さんは占いに凝っており、その占い師からその家庭教師(私)は捕まえておけとアドバイスを受けたそうです。

その時は、奇妙な縁もあるものだなと思いました。

 

授業はスタートからのんびり、和気あいあいとしたものでした。彼の目標大学はそれほど難関ではありませんでしたし、それ以上のことは生徒もご家庭もとくに要求しておりませんでした。

 

授業に行くとまず、彼がベッドに横になっていて、「先生そうガツガツせんとゆっくりやりましょう」なんて言ってる始末でした。

なんというか彼は私とはすっかり友達気分で、私もそういう風に接していました。

 

ある時別の案件の体験授業に行くために別の家庭教師センターの営業の方を私の車に乗せていたとき、彼から電話がかかってきました。私は運転しながらハンズフリーでその電話をとり話したので、一部始終その会話を家庭教師センターの方が聞いておりました。

すると彼の話し方を聞いてかなりビックリされたそうで、電話が終わってから「この生徒は誰ですか?」「先生に対して敬意もへったくれもない。なんちゅう話し方や」と色々言っていました。

私はあまりそういったことを気にするタイプではありませんが、これまで家庭教師をしてて思うのは、家庭教師をうまく使うには受け身ではダメで、すこし図々しいくらいがちょうどいいということです。

 

そのセンターの営業の方はたまたま、その生徒と同じ高校出身でしたので、「彼はあなたの後輩ですよ」と教えてあげると、返す言葉がなくなったようでした。

 

後々聞いてみると、彼としては一人っ子だったので仲の良いお兄さんがほしかったようです。

 

授業では、彼の好物がタンドリーチキンだったため、途中でよく差し入れられて、毎回授業の合間に二人でチキン休憩を取りました。

 

また、あるとき別の家庭で教えていると、生徒に私のボールペンを噛まれ、くの字にボールペンが割れてしまいました。

「ボールペンがこんななってもうてん」といってそれを見せると、彼はおもむろにその曲がったボールペンを手にとり「中途半端は良くない」とバキッと割ってくれました。

 

そんなこんなで、彼の授業はほどほどに進んでいき、成績ははっきり言ったパッとしませんでしたが、必要なことはやっていたので、その分の学力は身につけていました。ただ、必要以上のことは一切やらないというのが彼のスタイルでした。

 

いざ受験の期間に入ると、お家の方は一人っ子で始めての受験でしたので、相当心配をされていました。

そこで、私は滑り止めとして関関同立は受けておきましょうと提案しました。センター利用は科目数が多いほうが倍率も下がり、受かりやすい傾向にあるので、同志社は3科目より、立命の5科目。一般入試は受験機会が多いのでなるべく広く受けていきましょうということを伝えました。

 

するとなんとお母さんは関関同立の全ての受験パターンを出願しました。

願書にはセンター利用が多すぎて書ききれず、追加で注文し、複数枚に渡って提出しておられました。

そしてそれを書かされるのはお父さんの役目でした。相当数の願書を書いておられましたが、当時は手書きでしたのでかなり大変だったと思います。また、なにしろ慣れておられなかったので、よく大学から不備がありますと電話がかかってきてそのたびにお父さんはお母さんに叱られ、少し不憫に思うほどでした。

 

一方で、それを見て受験生の彼は「あの親だからなあ」と他人事みたいなことをいっている、私は「自分の受験なんやから自分で書かんかい」とツッコミでいました。

 

結局、お父さんの努力の甲斐もあり、私立大は複数合格を取り、第一志望の海洋大学にも無事合格しました。

 

その数ヶ月後大学生になった彼から連絡をもらって、レポートがあるので手伝ってくれと言われたときはやっぱり彼だなあと笑いました。